店舗サインとはその店の存在を告知するものであるが、同時にその店への誘導を図るためのものでもある。アイルランドの居酒屋では特にそんなことを感じさせられた。なにしろ、店の前に立ったときから強烈に入ってみたいという誘惑に駆られてしまうのだ。店のショーウインドからステンドグラスまで含めたファサード全体が蠱惑の輝きを持って誘いかけてくる。中の情景はどんなだろうと見てみたくなる。
添乗員の「ご案内しましょうか」という一言についていけば、そこは昼間メボシをつけておいた店ではないか。
世間話に花を咲かせる若者たち、ライブの音楽に聴き入る恋人同士、子供ずれの夫婦とさまざまだが、皆一様に持っているのはビールのジョッキ。ここではつまみの類は一切置いていないのか、とにかくビール一色なのだ。それも、ラガーと呼ばれるこげ茶色の地ビールが好まれる。これが最高と言われ、私も試しに飲んでみたが、薬くさくて合わなかった。歌い手も楽団もちびりちびりやりながらなごやかにアイルランドの夜はふけていった。 |